肩こりを自分で解消するためのケア方法

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肩こりにお悩みの方は多いと思いますが、ではそれに対して適切な対応をとっている人がどれだけいるかというとちょっと疑問です。そこで、まず肩こりがどうして起こるのかという仕組みとともに、どのような対応をとればいいかについて中国医学の観点も含めて考えてみたいと思います。

筋肉の基礎知識

肩こりが起きる仕組みを知ってもらう前に、まず人間の筋肉について簡単に説明したいと思います。

人間の筋肉にはいくつか種類がありますが、手足を曲げ伸ばししたり、体を支えるいわゆる「筋肉」としてイメージされる「骨格筋」は「横紋筋」で構成されています。文字通り、筋肉の繊維の束がいくつか集まってるために筋が入っているように見えるのでこう呼ばれます。

骨格筋が働く時は、その束ねられた筋肉の繊維が収縮します。運動というのは、筋肉の繊維が収縮したり弛緩したりすることで可能となるのです。

また、筋肉が収縮するときは、脳の指令によってカルシウムが筋肉の細胞の中に入り込み、いわば引き金のような役割を果たします。カルシウムが筋肉の細胞の中から出ていくと、筋肉は弛緩します。

肩こりを起こすのもこの横紋筋により構成された骨格筋です。

そもそもどうして肩こりが起きるの?

骨格筋は収縮と弛緩により体を動かすのですが、収縮の頻度が高まると徐々に弛緩しなくなり、収縮状態が続くようになります。これが筋肉が緊張した状態です。

筋肉の緊張状態が長く続くと、筋肉に栄養や酸素を供給する血管が圧迫されて、血液の流れが阻害され、酸素が不足したりカルシウムが筋肉の外に出ていきにくくなって、いわゆる「こり」=慢性的な筋肉の緊張を引き起こすことになります。

筋肉の運動はスポーツや肉体労働だけで行われるわけではありません。例えば、

  • 朝から晩まで椅子に座りつづける
  • 何時間もパソコンのディスプレイとにらめっこ
  • 同じ姿勢でひたすらキーボードを打つ

これらのことも、筋肉の収縮によって支えられています。デスクワークは特定の筋肉を長時間緊張させるという意味では、スポーツや肉体労働よりも筋肉を酷使しているともいえます。

そうした中で一番負担がかかっているのが、首から肩、背中へかけての筋肉です。なぜ負担がかかるのか?それは頭を支えているからです。人間の頭はおよそ5kgほどあると言われています。つまり、5kgの重さのボールを、細い首の骨格と筋肉で支えているということです。

長時間同じ姿勢を続けると、頭の重さをひたすら同じ筋肉で支えているわけですから、筋肉の疲労も相当なものとなります。ましてや、猫背になってしまって頭の位置が前のめりになると、首の骨格=頸椎で重さを支える分担がなくなり、全て筋肉に負担となってふりかかってきますから、更なる疲労・緊張が持続してしまうことになります。

一言に肩こりといっても様々な原因が考えられますが、デスクワークなどをしている女性の肩こりの原因として最も多いのが上記のようなことです。

中国医学から見た肩こり

中国医学では筋肉の働きには主にという臓器が関わっていると考えます。

まず、中国語では日本語で言う筋肉は「肌肉」と呼びます。そして、日本語で言う腱のことを「筋」と呼びます。この項では筋肉を肌肉、腱を筋として表記します。

肌肉の働きを健全に保っているのは脾です。脾は消化機能を司る概念ですが、脾によって胃腸が働き、飲食物が消化吸収されると考えます。つまり、脾の働きが悪くなると飲食物の栄養が摂取できず、肌肉にも届けられずに、力が出しにくくなったり全身の倦怠感が起きたりします。

一方、筋の働きを健全に保っているのは肝です。筋は肝が蓄えた血液の滋養を受けることで柔軟さを保っています。肝の血液が不足する「肝血虚」になると、筋が固く緊張したり、ひきつれを起こしたりします。

女性の場合は元々体質的に血液が少なかったり、生理によって毎月血液を失ってもいるので、男性よりは体内の血液が不足しがちです。ゆえに、肝に蓄えられる血液が減少することが原因になる肩こりが多いと思われますが、血液を作るのは飲食物から取り入れた「水谷精微」つまり栄養ですから、脾の働きが悪いことが原因の場合もあると思われます。

また、中国医学では人間の全身には「経絡」と呼ばれる気の流れる通路があり、経絡に気と、気の作用によって運ばれた血液が滞りなく流れることで健康が保たれていると考えます。

その経絡の流れが何らかの原因によって塞がれ、痛みやマヒなどが起こる症状を「痺症」と呼びます。痺症にはいくつかの種類がありますが、筋肉の緊張によって血液の流れが阻害されて起こる肩こりは、痺症の中でも「痛痺」に分類できると思われます。

痛痺は、主に冷えによって経絡の流れが阻害された症状です。筋肉の緊張が、外からの冷えが原因でなくとも、緊張によって血液の流れが減るとその部分が冷えるので、内部から起きた冷えによる痛痺であると言えると思います。

自分でできる肩こり改善法

「治療法」ではなく「改善法」としたのは、セルフケアでは肩こりを完全になくすことは難しいからです。ただ、セルフケアによってせめてつらい肩こりが改善できれば、精神的にも多少は楽になると思います。

栄養面での肩こり改善

まず、日常的な食事やサプリメントで改善できる点を挙げていきます。

  • たんぱく質
  • 人間の筋肉を形作っているのはたんぱく質です。筋肉は、使うことによってまず減ります。例えば腕立て伏せを10回やったら10回分強くなるのではなく、10回分減ります。そして、そこから体内のアミノ酸を合成することによって使われた分を回復させます。そのとき、10減ったら10回復させるのではなく、次に同じことをした時に堪え易いように11ぐらい回復します。これを「超回復」と呼びます。

    しかし、超回復のためにはその原料となるアミノ酸がなければいけません。アミノ酸はたんぱく質を摂取することで分解され、吸収されます。

    ですから、例えば1日デスクワークをして筋肉を消費したら、その分のたんぱく質を摂ってあげなければいけません。大豆のような植物性たんぱく質は、人間の体にとってはアミノ酸のバランスが悪いので、動物性たんぱく質のほうが効率がいいです。低脂肪の鶏の胸肉やささみがお勧めです。

  • ビタミンB群
  • ビタミンB群のうち、ビタミンB6はたんぱく質の代謝を助けています。ビタミンB6はにんにくやひまわりの種などに多く含まれていますが、それだけ摂取するよりはバランスよく他のビタミンBも含まれているビタミンB群のサプリを利用するのが効率がよいでしょう。

  • カルシウム
  • 上記のようにカルシウムは筋肉の収縮の引き金を引きます。では、摂らない方がいいのでは?と思われるかもしれませんが、血液の中のカルシウム濃度が減ると、体は骨を溶かして血液中にカルシウムを補給しようとします。すると筋肉によりカルシウムが供給されやすくなってしまうので、むしろカルシウムを適量補給したほうがいいのです。

    それに、女性の場合は特にカルシウムが不足しがちになるので、体全体の健康面から言ってもカルシウムはできるだけ摂取したほうがいいでしょう。

運動での肩こり改善

適度な運動を行うことで、ある程度肩こりを改善させることができます。

一番お勧めなのはウォーキングです。ウォーキングは全身の血流をよくするとともに、デスクワークなどでバランスがくずれた全身の血液の分布量を調節することができます。これはどういうことかというと、下半身に行った血液は足の筋肉が収縮することでぎゅっと上に押し上げられるので、じっと座っているときに下半身に行ったままの血液を上半身にもどしてあげることができるということです。

ただし、よく肘を曲げて無駄に大きく振りながら歩いている人をみかけますが、これはお勧めしません。正しい指導者についてやっているのなら問題ないのですが、テレビのウォーキング教室などを見て見よう見まねでやると姿勢がくずれ、余計な筋肉を使うことでより疲労が増加してしまうからです。

それよりも肩はリラックスして、自然に腕を振りながら歩くのがいいでしょう。

他に、ラジオ体操もお勧めです。日本のラジオ体操は、適度に体をほぐすのに非常に優秀にできています。ただし、学生のころのようにただだらだら流すのではなく、一つ一つの動作をきちっと行ってください。

球技は特定の動作に偏るものが多いので「肩こりの改善」としてはお勧めしません。もちろん趣味として行うのは全く問題ないのですが。

ストレッチでの肩こりの改善

肩回しストレッチは肩こりの改善に非常に有効です。ただしコツがあります。

「肩を回す」というとよく見られるのが、肘を曲げて腕をぐるぐる回すようにする動作です。実はこれは腕が回っているだけで、肩はほとんど回っていません。

そうではなくて、周りに手をぶつけるようなものがないところに立ち、肘と指を伸ばして、下から前に向かって伸ばすように持ち上げ、二の腕が自分の耳をこするぐらいの感じで回して後ろに降ろすという回し方をします。逆回しを行ってもかまいません。最初は10回ぐらい、できれば50回ぐらいできるように慣らしていくといいでしょう。

肩まわりだけではなく、ふとももやふくらはぎの裏側のストレッチなども有効です。全身の筋肉はそれぞれ干渉しあっているので、下半身を伸ばしてあげると背中の筋肉がゆるみ、それによって肩こりが改善することもあります。

入浴での肩こりの改善

ウォーキングよりは効果が落ちますが、半身浴によって血流を完全するのもある程度効果が期待できます。

浴槽のお湯をあまり熱すぎない40度~42度程度にして、浴槽に座った時に心臓の高さより下に水位が来るようにして、20分ほど入浴します。熱すぎるお湯がいけないのは、熱すぎると長く入っていられないのと、熱が表皮のみに留まって内臓までとどいてくれないからです。

ゆっくり入浴したあとストレッチするとさらに効果が上がるでしょう。

正座での肩こりの改善

普段猫背気味の人にお勧めしたいのが、1日のうちに5分~10分ほど正座する時間をつくるということです。

椅子の生活では姿勢を正しく保つのが難しいので、特に筋力が弱い女性は猫背気味になってしまいます。そこで、正座をきちっとすることで姿勢を正す習慣をつけるのです。正座をすると逆に猫背になるのが難しいと思います。

正座をする時間をつくる目的は、その間に正しい姿勢をして肩こりを改善させるということではなく、背筋を伸ばした正しい姿勢の基準を体に教え込み、椅子に座っているときでも気が付いたら正座をしているような背筋を伸ばした姿勢になれるようにすることです。

また、太ももの前の筋肉が伸びることで、腰や肩の筋肉をゆるめるという効果も多少あります。

ただし、膝に痛みがあるという場合は無理にやらないでください。また、しびれて立てなくなるほど長く続ける必要もありません。

中国医学的な対処法

上記のように、中国医学的には脾・肝、そして気と気によって運ばれる血液の流れが肩こりに関連しています。

脾の働きをよくするには、暴飲暴食を避けること、冷たい飲食物を控えること、必要以上の水分を摂取しないことです。また、中国ではサツマイモ・大豆・ハトムギなどは脾の働きを助けると言われているので食生活に取り入れるのもいいでしょう。

肝の働きをよくするには、あまり怒らないようにすること、怒りを感じるようなことがあったら貯め込まずに上手に発散して忘れること、辛い物を摂らないようにして酸味があるものを摂るようにすることなどです。お酒を控えるのも大切です。黒胡麻やレンコンは肝の働きを助けると言われています。

経絡の滞りをなくすには、上記のようなウォーキングやストレッチが有効です。特に太極拳は中国で生まれたもので、経絡の流れをよくする効果が強いので、近所に教室などがあればならってみるのもいいと思います。

以上のことに少しずつでも気をつければ、例えば今の肩こりレベルが10とすると、それを7とか6ぐらいに減らすことはできると思います。それ以上減らしたい時は、指圧や鍼灸などの専門の治療を受けるようにしてください。

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