夫に間違いを指摘すると逆ギレする。普段温厚な人なのでキレた姿を見るのが怖くて言いたいことが言えなくなった。もしくは、夫に言いたいことを言ってもすぐに喧嘩になり、復讐するかのように何週間も夫が無視してくる、などなど。
本当は夫に言いたいことがあるが、建設的な結果にならないゆえ我慢をしている妻も多いかと思います。こういう場合、夫のキャパシティーが少ないことも原因かと思いますが、妻側も言いたいことの表現方法に工夫をした方がいいかもしれません。
なにもしないで様子を見ていても、夫のキャパシティーが広がっていくわけでもありません。今回は、夫に対する建設的な自己主張の方法を提案したいと思います。
夫に言いたいことが言えない人は以下のようなな状況に頭を悩ませているかもしれません。
家族同士はどうしても甘えが出てしまいます。仕事なら自分の思いをなんとか冷静に客観的に伝える努力をしようとするのかもしれませんが相手が家族だと、「家族ならわかってくれる」「家族はわかるべきだ」などという甘えに我々はあぐらをかいてしまうものです。
それから、夫から言い返された時、カッとなって感情を爆発させてしまいそうなので言いたいことを押さえているという人もいるでしょう。
ですが、夫と意志疎通がはかれないままでいると、子育てについての考え方の違いや、お金の使い方の違いなどの溝が広がっていき、家族の人生に深刻な影を落とすかもしれません。ではどうやって言いたいことを夫に伝えたらいいのでしょうか。
夫に上手に言いたいことを伝えるためには、妻がアサーティブであることが重要です。「アサーティブ」とは簡単に言うと、自己表現、意見表明のことを指します。まずは、アサーティブネスにおける、コミュニケーションタイプについて紹介しましょう。
2.攻撃的
3.受け身で攻撃的
4.アサーティブ
受け身のコミュニケーションをとる人は他人と自分との関係性を「I am not OK. You are OK」という風にとらえています。
自分を押さえて相手に合わせるタイプなのです。「言いたいことが言えない」という人はこのタイプに多く該当します。日本人に多いタイプだとも言えますね。
攻撃的なコミュニケーションをとる人は「I am OK. You are not OK」な人です。自分の意志を最優先とし、相手の気持ちに配慮をしようとしません。自分はいつも正しく相手がいつも間違っていると言うスタンスを取り続けます。
夫婦の場合、妻が「受け身」タイプ、夫が「攻撃的」タイプという組み合わせだと、夫がいつまでも高圧的に妻に批判をし、自分の意見を押し付け続け、妻は何も言えず我慢し続けるという関係性が持続されることになります。
「受け身で攻撃的」タイプは「I am not OK. You are not OK」な人です。明確に自分の意見を表明はしませんが、自分の意志のもとに作為的に相手のことをコントロールしようとします。
例えば、気に入らないことがあるとふてくされる、相手を無視する、約束を守らないなどして、罪悪感や怒りの感情を相手に起こさせるための行動をとります。「言いたいことが言えない」と思いつつも実は攻撃的行動をとっていませんか。
「夫に言ったってどうせ伝わらないから言わない」と考えていながら、夫に無視をしたり、不満げな態度をとっている人は、このタイプに該当します。
アサーティブタイプは、「I am OK. You are OK」な人、すなわち、相手を尊重し、自分も尊重できる人です。夫に言いたいことを言えるようになるためには、このアサーティブタイプのコミュニケーションを目指しましょう。
ここまで4つのコミュニケーションのタイプを見てきましたが、必ずしも一人の人がひとつだけのタイプにあてはまるわけではありません。
夫には受け身的態度で接しているが、友達にはアサーティブになんでも話せるとか、対面して会話をすると攻撃的かつ受け身的になってしまうが、メールだとアサーティブに素直に意見表明できる…。
などなど、一人の人の中に複合的にコミュニケーションタイプが存在しているのが普通です。
論理療法の創始者とされているアルバート・エリスは、人の悩みは出来事から来るのではなく、出来事の受け取り方から来るものだと考えていました。まずはエリスの打ちたてたABCD理論をご紹介します。
ABCD理論のABCDは、以下の事項の頭文字をとっています。
B:Belief(信念・考え)
C:Consequence(結果)
D:Dispute(論破)
我々は一般的には、出来事(A)があって結果(C)が訪れる(A→C)という風に考えるものです。一方、エリスは、出来事を信念でどうとらえるかで結果が引き起こされると考えます(A→B→C)。
例えば理不尽な夫にずっと妻が我慢し続け、夫の定年時に熟年離婚したとします。我々は、夫が理不尽だという出来事が熟年離婚という結果を引き起こしたという風に考えがちですが、エリスの理論ではそうはとらえません。
「理不尽な夫に対して言いたいことを言えない」という妻の信念が、熟年離婚を引き起こしたと考えるのです。妻が言いたいことを言えるタイプだったならば、理不尽な夫も考え方を改めて熟年離婚にはならなかったかもしれないからです。
エリスは、信念にも2種類あると説いています。
IBは、現実的でなく、論理的整合性のない信念です。例えば、子どものころから「男は泣くものではない」「お姉ちゃんだからしっかりしなくてはならない」などと親から言われ本人もそれを信じているとします。
このように一見正しそうに見える価値観を、大人になっても大事に抱えている人は多いわけですが、では、本当に男は泣くものではなく、お姉ちゃんはしっかりしなくてはならないのでしょうか。
現実には、人前でも涙を見せる男性はいますし、頼りないけど周りから慕われているお姉さんだっていますよね。
IBは「べきだ」「絶対…しなければならない」など強制や命令などのニュアンスを持つ信念ですが、RBは、「かわいがっていた飼い犬が死んで悲しい」などの実際に合っている合理的な信念です。
夫に言いたいことを言って、よい結果にならなかったという人は、もしかするとIBの方面から夫にものを言っているのかもしれません。「共働きなのだから、夫も家事を手伝うべき」
「子どもに大声で怒鳴るべきではない」などなど。
それが正しいとか間違っているなどは別にして、共働きでも家事を手伝わない、子どもを大声で怒鳴る父親は現実にはたくさんいます。つまり、妻が「IBに基づいたうえで発言している」ということが問題なのです。
IBをもとにした意見表明は、意見表明した人の常識が正しく、言われた側が非常識な人間であるという決め付けを含むものになります。すると、受け取り手は自分の信念を否定されたように感ます。
自分の信念を否定された人はどうするでしょうか。相手の言うことを素直に聞きはしません。逆上するかもしれませんし、妻のことを無視するかもしれません。
IBに基づく信念で、妻が言いたいことを言っても、夫は簡単には受け取ろうとはしないでしょう。一旦、IB→RBに変換し、実際的で合理的な言い方で伝えるようにすることが必要です。
我々は、誰かと関係性を持つ限り、常になんらかの評価にさらされています。称賛されることもあれば、批判や非難を受けることもあるわけです。
夫に言いたいことを言えないでいるのは、夫から無視されたり、離婚をちらつかされたり、喧嘩になったりするなどのある意味ネガティブな評価を怖れるがゆえなのかもしれません。
IBに基づく信念で、夫に言いたいことを言うということは、そのまま夫を否定する可能性があると述べました。それはすなわち、夫を批判することになっているのです。ですが、批判された夫が素直に理解を示してくれるだなんてどう考えてもまれですよね。
では妻側から上手に批判を伝えるにはどうしたらいいのでしょうか。仮に、「子どもに大声で怒鳴るべきではない」と妻は思っているとします。
夫は日頃から子どもの面倒をよく見てくれるのですが、小さな子どもの悪気のない言動にも夫は大きな声で激しく怒鳴りつけています。夫婦のIBが以下のようなものだったとします。
もし、妻がIBのまま夫に言いたいことを伝えると「もう!○○は小さいんだから!そんなに怒鳴らなくてもいいでしょ!」という発言になるでしょうか。
夫のIBは「大声で怒鳴るべき」なので、お互いのIBが激突して事態は平行線をたどります。こんな場合、妻はどう自己主張したらよいでしょうか。ポイントは以下の通りです。
ヒントを参考した夫への表現方法を紹介します。「今日、○○(子ども)がコップの水をこぼしたよね。あなたは、大声で○○に怒鳴っていたよね(この時点ではあくまで批判のニュアンスは入れず、事実確認をするだけ)。」
「私は、○○は小さいけど、大声で怒鳴られなくても、怒られている内容は理解できていると思う。あなたが小さい○○に大声で怒鳴っているのを見るのは悲しいな(ここも批判のニュアンスは出さない。自分の気持ちを表明します)。」
「だから、これからは○○がなにか失敗したとしても、普通の大きさの声で叱ってほしい(この時点で要望を伝えます)」。この言い方なら夫のIBを容赦なく否定していることにはならないので、夫も聞く耳を持つはずです。
夫にうまく自己主張できないでいる人は、自分の感情や夫の感情を扱いかねている人だともいえます。例えば「共働きなのだから、夫も家事を手伝うべきである」ということを夫に言うことを考えてみましょう。
夫が即座に「俺だって休日には食器を洗っている。だから、それ以上やるつもりはない。」などと言い返してきたとき、妻は怒りや悲しみなどのネガティブな感情に駆られるかもしれません。
はたまた、「俺が一家の主なのだからつべこべ言うな」と夫の側が怒りを表してくるかもしれません。
つまり、うまく自己主張できなくなるのは、「夫が家事を手伝うかどうか」ということが原因というのではなく「夫が家事を手伝うべきだ」という妻のIBから湧きおこる夫婦相互の感情のもつれなのです。
もし上手に感情をコントロールできるとしたら、どうでしょうか。それにはまず自分の感情と向き合う必要があります。
ネガティブな感情が自己主張を妨げるようになるのですが、とはいえ、感情そのものが悪いわけではありません。感情は我々が原始から生き残るために必要なものだったのですから。
アサーティブネスのコミュニケーションタイプを4つの中で、夫に上手に自己主張するためには4つめの「アサーティブ」を目指すことを目標としました。
アサーティブなコミュニケーションスタイルは「I am OK. You are OK」なのですが、まずここを目指すためには、なにがなんでも「I am OK.」である必要があります。なぜなら自分を尊重できない人は他人も尊重できないからです。
自分の感情を大切にしていますか。自分のことを理解できていますか。自分の嫌な部分を責めるのではなく、こういう私も私だと認めて、ネガティブな感情も受け止めましょう。
「夫に腹が立つけど、私、頑張っているし、腹が立つのも無理もないよな」というように、自分の感情に目を向け、大事にすることを先にしましょう。
家事を頑張っている自分を夫が褒めてくれないという不満があるのなら、そのまえに家事を頑張っている自分を自分でいたわるようにしましょう。
夫に対して言いたいこと言えないでいる妻に向けて建設的な自己主張の方法を提示しました。夫に言いたいことが言えないでいる妻の側が、実は自分の気持ちをわかっていないということもよくあることかと思います。
今回お伝えした自己主張の方法を採用するだけで、夫の態度も変化することと思います。自分の出方を変えれば夫の出方も変わるのだと気づくことも大切なことです。
あなたが夫に対して言いたいことが言えないように、実は夫も言いたいことが言えないでいるかもしれません。上手に自己主張ができる人は、相手の意見もきちんとくみとることができる人です。この機会をとらえてお互いの考えを分かち合ってみませんか。