子どもの発達や教育に関するキーワードの中に、「9歳の壁」という言葉があります。「10歳の壁」という人もいるのですが、9歳前後の小学校3年生から4年生くらいの子どもたちには、さまざまな課題が降りかかってきます。
そして、この時期をどう乗り越えるかが、その後の成長に大きくかかわってくるのです。
9歳から10歳ごろになると、身長や体重などの体つきも、運動面や学習面でも、個人差が大きくなってきます。「走るのが速い」「運動が苦手」「計算が得意」など、学校のクラスの中でも、子どもによって、さまざまな能力の差が、広がってくるのです。
教科書の内容も、算数なら、2年生で覚えた九九を応用して計算する「割り算」や「分数の計算」、自然界では馴染みのない「少数点以下の計算」などが出てきます。
低学年の頃のように、具体的に目で見て理解できる学習から、抽象的な思考や論理的な思考を必要とする学習へと進むため、小学校3年生や、4年生になって、学習につまずいてしまう子どもが増えてくるのだそうです。
人の脳は、10歳ごろまでは、急速に発達し、その後は、発達が緩やかになってしまうのだそうです。
そうはいっても、幼児期から、早期教育として、漢字や計算、英会話まで、暗記型や詰込み型の学習をさせても、将来、頭のいい子にはならないのだといいます。
吸収力の高い幼児期から9歳ごろまでの間に、目や耳、手足や体を使って、しっかり遊んでいないと、思考力が乏しい子どもになってしまうのだといいます。
体の感覚を十分に使って、遊ぶことで、脳は、さまざまな経験を蓄積していきます。その遊びの経験が、先を見通す力や、実際には目に見えない抽象的な思考能力を発達させるのです。
「たくさんの漢字が書ける」「計算が速い」「世界の国名や日本の地名など、暗記力が高い」などの子どものほうが、頭がいいと思っている大人が、学校でも、家庭でも、やはり多いのではないでしょうか。
質より量の詰込み型の勉強ばかりさせていると、暗記力は高くなっても、文章問題や応用問題などに対応できなくなってしまう場合もあります。
そして、発達心理学では、9歳ごろの子どもの特徴について、「ギャングエイジ」という言葉もあります。
ちょうど、小学校3年生から高学年くらいの年齢を、「ギャングエイジ」と呼び、親や大人の干渉から離れて、自分たちで、友達同士の子ども社会を形成しはじめる時期に入ります。
この「ギャングエイジ」期には、決まった仲間でグループになって遊んだり、自分たちだけのルールを作るなど、閉鎖性が高くなります。
当然ながら、友達との間にトラブルもたくさん起こるため、判断能力や問題解決能力が、未熟な子どもにとって、学習面だけでなく、精神的な負担が、大きくなってしまうときもあるでしょう。
このように9歳という年齢は、子どもの発達や成長にとって、大きな節目となります。
幼児期の遊びの不足が、「9歳の壁」を乗り越えられなくなる原因の一つとなるのですが、ほかにも、核家族の家庭が増えてきたことを問題視する人もいます。
それぞれの家庭内で、世代や人数などの構成が縮小してしまったために、家族とのかかわりや会話の機会が減ってしまいました。
コミュニケーション能力や言語能力といった能力は、大人になってからも、相手の話を的確に聞き取って理解したり、自分の考えを正確に説明する際にも、必要な能力です。
子どもは、本当に、あっという間に大きくなってしまいます。早く気が付けば、その分、しっかり気をつけてあげられますよね。大人も子どもと一緒になって、遊んであげたり、たどたどしい話も、いっぱい聞いてあげたりしたいですね。