近年、我が国の女性20人に1人の割合で乳がんにかかると言われています。そして、乳がんで死亡する人は年間1万人にも達しています。それだけに、女性にとっては、自分がもしかして乳がんになっているのではないかと心配される方も多いことでしょう。
乳がんは自分で発見できる数少ないがんの1つでもあり、手で触れてみてしこりがある、あるいは乳頭から血液のようなものが出た、乳房に痛みを感じるというような自覚症状によって病院に駆け込む人も多いのです。
乳がんもがんの一種である以上、こうした自覚症状を見つけたときは、様々なことが頭をよぎるでしょう。もしかしたら自分はもう長くは生きられないのではないか、残された家族のことが心配であるとか、自分はまだまだやり残したことがあるのになど、心配ごとは尽きないでしょう。
しかし、自覚症状があるからといって必ずしも乳がんであるとは限りません。何らかの異常があるとしても、似たような症状で別の病気であることもあります。さらに、万一乳がんであったとしても、この病気は治る病気です。
さらに、乳がんであれば、乳房を全摘出しなければならないのではないかと心配されている方も多いと思いますが、現在、乳がん手術の半数以上は温存手術です。しかも最近では、乳房の再建手術の技術も進んでいますので、早期発見早期治療を行えば、生存率も高く、何も心配する必要はありません。
ここでは、こうした自覚症状を見つけた方に、乳がん以外の病気のこと、そして乳がん手術の現状をご理解いただくことで、前向きに人生を歩んでいただきたいという思いでいくつかお話をさせていただきます。
乳がんといえば、しこりがある、乳頭から汁のようなものが出た、乳房が痛いなどという自覚症状がよく知られているせいか、病院に駆け込んでくる女性の大半はこうした自覚症状を訴えられます。
しかし、同じような症状でも実は乳がんではないということもよくありますので、ここにいくつかの症例をご紹介します。
エストロゲンとプロゲステロンというホルモン分泌のアンバランスが原因で起こる病気です。乳房がむくんだり、水がたまる、痛みや張りを感じる、乳頭から分泌物が出るなど、症状としては乳がんによく似ていますが、がん化することはありません。よほど痛みが激しいという場合を除いて治療の必要もありません。
原因は細菌による感染です。症状としては赤く腫れる、痛みを感じる、膿が出る、しこりがあるというようなもので、これも乳がんと似ています。多いのは、授乳期に母親が乳房にうっ滞することで炎症を起こすケースです。
もしここに細菌が進入すると膿が出るようになります。この場合は、注射器などを使って膿を吸い出すか、切開して膿を取るという方法が用いられるほか、抗生物質が使われる場合もあります。
腫瘍ではありますが、良性で、硬いしこりのようなものを感じますが、触ると動きます。この病気の場合、しこりが大きくなったりしなければ、特に治療する必要はありません。
これも良性の腫瘍です。症状としては、乳頭から血液が出たりすることがあります。腫瘍を切除することもありますが、乳がんではありません。
線維腺腫と似ているのですが、腫瘍が大きくなることがあります。多くの場合、良性の腫瘍です。悪性と診断されない限り、切除手術の必要がない場合が多いです。ただ、良性であっても悪性に転換する場合もありますので、経過観察はしっかり行いましょう。
もし、乳がんであると診断された場合、様々なことが心配になります。自分はもう長く生きられないのではないか、残された家族のことが心配、乳房が全て摘出されて女性としてとてもショックであるなど不安はたくさんあるでしょう。
しかし乳がんは治る病気ですし、2センチ以下のしこりでリンパ節への転移がなければ、10年後の生存率は90%にもなります。それだけ、現代の医学は進歩しているということですので、前向きに手術を受けましょう。
また、手術を受けるとしても、現代の乳がん手術はその大半が温存手術ですので、乳房を全摘出してしまうようなことは少ないのです。但し、そのためには、日頃から定期的に検診を受けるなど、早期発見につとめることが大切です。
それでは温存手術のいくつかの方法についてご紹介しましょう。
がんを含む乳房を、扇状に切除します。イメージとしては乳頭が扇の要になるような感じです。これは、温存手術の中でも最も広範囲にわたって切除する術式です。そのため、がんを取り残す可能性は低くなりますが、乳房が原型を残す割合は低くなります。
がんを中心に円状に切除する方法で、切除範囲が狭いため、乳房の原型は残しやすいのが特徴です。ただ、逆にがんを取り残す可能性は、上述の乳房扇状部分切除術に比べて高くなります。
放射線治療も含めた治療全体を指すことが多いです。がんが小さい範囲で見つかることが多くなったことや、術前化学療法が多くなったことなどを背景に最近は増えてきまいた。
乳がんの切除手術によって乳房を失った方に、再建手術を行うことができます。例えば背中の筋肉や脂肪を使って再建するという方法があります。乳房再建手術に関しては、誤解されている方も多いようなのですが、医師と十分に相談して結論を出されるとよいでしょう。
乳房にしこりや痛みを感じて、乳がんではないかと不安になる方も多いでしょう。その場合はすぐに医者の診断を受けて下さい。似たような症状でも全く違う病気であることも多いのです。また、結果的に乳がんであると診断されたとしても決して悲観する必要はありません。
乳がんは治る確率の非常に高い病気で、生存率もとても高いのです。また、必ずしも乳房を全摘出する必要はなく、実際には大半が温存手術なのです。さらに、切除した乳房を再建手術によってきれいに整える技術も進んでいますので、残りの人生をくよくよすることなく生きていけるのです。
但し、大切なことは、日頃から定期的に検診等を受け、また自己診断もまめに行い、早期発見につとめることです。それが結果的にQOLを高めることにつながりますので、日頃の心がけを大切にしていただきたいと思います。