低用量ピルは日本国内では1999年に認可され、若い女性を中心に服用する人口は徐々に増えてきました。現在は約100万人ともいわれています。
しかし海外と比較するとまだまだ認知度は低く、低用量ピルを服用していない一般の人にとっては「避妊のため」という認識にとどまっています。
副作用が重そう、月経をコントロールするなんて、大丈夫なの?将来妊娠できなくなるのでは?そんな不安が聞こえてきそうです。
確かに薬である以上、副作用は避けられません。しかし、メリットもたくさんあります。それも、女性が心身ともに健康で生きるための、嬉しい効果もあるのです。
低用量ピルについて正しく理解して、健康的な生活に役立てましょう。避妊効果については言うまでもないため、今回は避妊以外についてまとめました。
女性にとって憂鬱な月経。毎月訪れるものだし、仕方ないと思っていませんか?低用量ピルによって、月経にともなうマイナートラブルを改善させる効果が期待できます。
月経前のイライラや憂鬱、体がだるくてどうしようもない…。こういった症状がひどいことをPMS(月経前症候群)といいます。近年その名前は知名度が上がってきていると思います。中には抗うつ剤を使うほどの重症の方もいるほどです。
体質だから、月経前だからと、諦めるのはまだ早いです。実は低用量ピルにはPMSを改善させる効果があります。
PMSはホルモンバランスの劇的な変化が原因となり起こります。低用量ピルの服用により排卵が止まりますので、ホルモンバランスの変化が少なくなります。その結果、PMSが和らぎます。
月経前のイライラや体調不良に悩んでいる方は、低用量ピルを試してみてはいかがでしょうか。
月経に関する悩み、特に重い月経痛や、月経過多はその代表例と言えます。低用量ピルの服用によって、こういった辛い症状も緩和されます。
子宮内膜が体外に排出されるのが月経で、子宮内膜が剥がれ落ちるときに伴う痛みが月経痛です。低用量ピルを飲んでいると子宮内膜の増殖は抑制されますので、痛みは軽くなります。また、内膜が少なくなるため、出血も少なくなるというわけです。
痛み止めを使って重い月経痛を乗り切る人も多いですが、低用量ピルは痛みの元そのものを取り除くことができます。また、出血が減るため、貧血になりにくいという利点もあります。
ちょっとしたストレスや疲れなどで、月経が遅れたり、逆に早くなったりという経験、ありませんか?女性の月経周期は、ホルモンの微妙なバランスによって簡単に崩れてしまうのです。
低用量ピルを飲むと、月経周期が28日で安定します。そのため、いつ月経が来るかわかるようになります。
月経をコントロールできるので、旅行や大事な仕事を避けることができます。「いつ来るのかわからない」「予想外に来てしまった」そんなストレスから解放されます。
低用量ピルは避妊のためだけではなく、婦人科疾患の改善を目的に処方されることがよくあります。また、さまざまながんの発症リスクを抑えるという報告もあります。その例をご紹介しましょう。
激しい月経痛や経血、チョコレート嚢胞などを伴う子宮内膜症は、放置すると不妊の原因にもなります。女性のライフスタイルや食生活の変化に伴い、年々増加傾向にあるのです。
妊娠を希望しない場合、治療に低用量ピルが使用されることがよくあります。子宮内膜の増殖を抑える効果があることがその理由の一つです。
また、子宮内膜症の患者は、痛みを感じる神経が内膜にまで及ぶため激しい痛みを感じます。低用量ピルを服用することで神経の増殖が抑制されるため、痛みを抑えることができるという効果もあります。
低用量ピルは基本的には自由診療のため、実費になりますが、子宮内膜症の治療において保険適用が認められることもあります。それほど有効な手段というわけです。
排卵障害の治療にも低用量ピルはよく使われます。例えば多嚢胞性卵巣症候群がその代表例です。ホルモンバランスの崩れにより、卵巣の中に未成熟な卵子の元(卵胞)が溜まってしまい、排卵が阻害される疾患です。
患者が妊娠を希望しない場合は、積極的に低用量ピルが用いられます。服用すると妊娠しているときと同じホルモンの状態になります。これを利用して卵巣や排卵の機能自体を休ませます。
何ヶ月か服用して止めたところで、自然と排卵できるようになることもあります。これをリバウンド効果と言います。
長期服用によって不妊になるのでは?と思う人もいるかもしれませんが、心配は無用です。低用量ピルを飲んでいる間はもちろん妊娠しませんが、服用を止めた後に、ピルの副作用によって不妊になるということはありません。
むしろ子宮内膜症や排卵障害は進行性の病気です。治療をしないと、将来重度の不妊に陥る可能性が高くなります。低用量ピルは、こうした婦人科疾患の悪化を防ぐためにはとても有効です。
実は低用量ピルを一定期間服用すると、その後10年~20年間はさまざまながんの発生リスクを抑えられることがわかっています。
例えば卵巣がんが挙げられますが、ピルの服用により卵巣を一定期間休ませられるため、がんの発症リスクが下がります。
子宮体がんも低用量ピルの服用により発症リスクが下がります。10年以上服用すると、その後子宮体がんの発症リスクは80%も抑えることができるという報告もあります。
その他、婦人科系の疾患とは別ですが、意外なところで大腸がんの発症リスクが下がることもわかっています。
ちなみに、低用量ピルの服用により乳がんに罹りやすくなるという話を聞いたことがある人も多いかもしれません。ピルの服用経験の有無による乳がん罹患率を比較したデータがありますが、実は10万人を調査しても5人~10人増えるかどうかといったところです。
乳がんは早期発見、治療により、確実に完治できる病気です。乳がんの心配と、低用量ピルの服用によるメリットを比較して、どちらがあなたにとって有効でしょうか。
女性ホルモンの代表例として、「エストロゲン」と「プロゲステロン」は名前だけは誰でも聞いたことがあるでしょう。低用量ピルにはこの二種類のホルモンが含まれていますが、どういった働きがあるのでしょうか。
女性向けの雑誌などでも紹介されることが多いエストロゲンは、「美肌ホルモン」と称されることもあります。
エストロゲンは月経後~排卵までの間に分泌が増えます。月経が終わると気分が前向きになったり、肌の調子が整ったりする女性は多いと思いますが、これはエストロゲンの分泌も関係しているのです。
新陳代謝を活発にし、肌や髪のツヤを保ちます。また、バストアップやアンチエイジングにも効果があると言われています。美容系のクリニックではエストロゲンが治療に使われることもあります。まさに、女性の美に欠かせないホルモンです。
プロゲステロンは排卵直後~月経前までに分泌がさかんになります。「母のホルモン」と呼ばれることがあります。これは、受精し妊娠が成立した場合、子宮内膜をフカフカにしたり、体温を上げたりするなど、妊娠を維持させる作用があるからです。
プロゲステロンには水分を体に溜め込む作用があります。過剰になると皮脂分泌が増え、ニキビや肌荒れ、むくみの原因になります。しかし、うるおいをキープするゆえ、髪や肌のツヤも保たれるということです。
エストロゲンは美のイメージが強いですが、過剰な摂取はさまざまな危険を伴います。例えば乳腺が刺激されるため、乳がんの発症リスクが高くなります。子宮筋腫の発生率も高くなります。また、PMSの悪化や排卵障害などの月経のトラブルも起きやすくなります。
プロゲステロンは、エストロゲンの暴走を抑えるために非常に重要なホルモンなのです。この二つのホルモンは、どちらかがたくさんあれば良いというものではなく、バランスよく分泌されることで、効果が発揮されるのです。
もちろん、低用量ピルを服用していなくても、これらのホルモンは分泌されます。しかし、何かとストレスの多い現代社会において、ホルモンバランスは簡単に崩れてしまいます。結果、月経不順や肌荒れなどを引き起こしてしまいます。
低用量ピルにはエストロゲンもプロゲステロンもバランスよく含まれているため、服用することで肌や髪の調子が整います。
低用量ピルが女性の健康にとって良い効果をもたらすことを述べてきました。しかし、その効果をしっかり発揮させるためにはルールがあります。
まず大原則として、必ず一日一錠ずつ飲みましょう。服用を止めると、ホルモンの働きですぐに月経がきてしまいます。
また、ある日は朝食後に飲み、ある日は夕方に飲む…といった服用は望ましくありません。服用する時間がばらばらでは、ホルモンの分泌が不安定になり、正しく作用しないおそれがあります。
毎日同じ時間に飲みましょう。服用により気分が悪くなったり、眠気がきたりする場合は、夜寝る前がお勧めです。
低用量ピルの処方のためには婦人科の通院は必須です。医療機関によっては半年程度まとめて処方してくれる所もありますが、長期服用は肝臓に負担がかかる可能性があります。そのため少なくとも半年に一度は通院し、血液検査等で問題がないか確認をしましょう。
また、ピルは避妊には非常に高い効果がありますが、HIVやクラミジア、子宮頸がんの原因となるHPVといった性感染症は防げません。子宮頸がん検診は毎年必ず受けましょう。心配な人は性感染症の検査も受けることも大切です。
低用量ピルの良い面をたくさん挙げてきましたが、副作用のない薬は存在しません。低用量ピルにももちろん副作用はあり、比較的多いのが、悪心や眠気、不正出血です。
ほとんどの場合は服用開始から3ヶ月以内には落ち着きますが、もし長期間続く場合は専門医に相談しましょう。低用量ピルもさまざまな種類があるため、別のピルを試すことができます。
低用量ピルは誰でも飲んで良いわけではなく、飲んではいけない場合もあります。服用を開始する前に、あてはまらないか必ず確認しましょう。
上記にあてはまりながらも低用量ピルを服用した場合、疾患の悪化や、命にかかわる血栓症などを引き起こす恐れがあります。特に喫煙しているピルユーザーは、血栓による死亡率がぐんと高くなりますので、これを機に禁煙しましょう。
低用量ピルの意外なメリットについて説明しましたが、怖い薬というイメージは払拭されたでしょうか。
現代女性のライフスタイルや仕事は多様化の一途をたどり、日々忙しく生活する方も多いと思います。低用量ピルはバースコントロールはもちろんのこと、上で述べたように美容や女性の健康への強い味方となってくれる可能性があります。
メリット、デメリットをそれぞれ理解したうえで上手に活用して、快適な生活に役立てましょう。