長引く産後の不調はいつまで?迷わず受診してみよう

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「産後の肥立ち(ひだち)」という言葉をきいたことがありますか?「産後の肥立ち」とは妊娠、出産を終えた母体が順調に妊娠前の元気な状態に回復することです。

この回復が順調で理想的であれば「産後の肥立ちが良い」、回復が思わしくなく不調が続く場合は「産後の肥立ちが悪い」と表現されます。

日本のように医療が発達して、衛生的な環境や病院などの施設と健診を受けられる保険制度が整っている国では、妊娠と出産はとても安全で赤ちゃんは無事に生まれて、自分もすぐ元気に母親業をこなせるというイメージがありませんか?

100年前の衛生環境が悪く、医療が未発達の日本では10万件の出産に対し、400人のお母さんは出産で命を落としていました。

それから100年たった医療の進歩や環境の整備が行き届いた世界に誇る先進国である現在の日本でも10万件の出産に対し、約4人が亡くなっています。他国ではもっと多くの産婦さんが命を落とします。

それほど、妊娠して赤ちゃんを出産するということは女性の身体に負担のかかる大変な出来事なのです。産後すぐに妊娠前の元気で活動的な自分に回復できる方が奇跡的だと言えるでしょう。

「産後の肥立ちが悪い」と言われて傷ついたり、産後の心身のトラブルで日々苦しい思いをしている女性のかた、その状態は適切にケアしていけば必ずいつか回復します。

長引く不調やつらい症状は一人で悩まず解消法をチェックしたりクリニックを受診してみてください。

明日急に良くなるということはないかもしれません。しかしあなたの身体はいろいろな症状を出しながら調整をしつつ回復に向かっています。時間が少しかかっても焦らすにいてくださいね。

大多数の産婦が経験!出産直後の主な不調

出産を終えた母体は産後約6~8週間かけてどんどん回復していきます。完全ではありませんがほぼ妊娠前の状態に戻るまでのこの期間を「産褥期(さんじょくき)」と呼び、出産で疲労した母体の休養と栄養補給が一番必要なときです。もっとも大切なのは睡眠と休養です。

出産後すぐに起こる産後女性の身体の変化と言えば「後陣痛(こうじんつう)」と「悪露(おろ)」です。後陣痛は起きないタイプの人もいますが悪露はほぼ全員が経験します。

後陣痛とはお産のあとに子宮が元に戻ろうと収縮運動をすることで下腹部に痛みを感じることです。授乳の際にも乳首からの刺激で子宮が収縮して痛みを感じることがあります。痛みがひどい場合は鎮痛剤が処方されます。

悪露はお産のあとの子宮や膣の傷からでる血液やリンパ液などの分泌液のことです。これは生理のように出血をナプキンで処理し、排尿や悪露交換のたびに清潔に消毒して手当てしていくと悪露の色が薄くなり目安として産後3週間くらいで悪露は見られなくなります。

悪露が長期間にわたって止まらないのは「子宮復古不全」と言います。後陣痛や悪露が長引く場合は、出産した産婦人科で相談してください。必要な場合は診察と抗生物質など投薬の治療が行われます。

また普段から健康で発熱などしたことない女性でも、この時期には細菌感染による「産褥熱」が出ることがあります。乳管のつまりや細菌感染でおこり、乳房に痛みが走る「乳腺炎」での発熱などもあり、熱が出やすい時期でもあります。

この場合も産婦人科で対応してもらえますので、細菌感染の場合は抗生物質や解熱剤の処方、乳管のつまりによる乳腺炎にはあわせて搾乳の指導などを受けてください。

その他に産後すぐは便通の異常や痔の発症や悪化が見られることがあります。産後は膣のまわりや痔の傷が痛くて便意をがまんして便秘になったり、疲労や免疫力の低下で下痢に見舞われたりします。

どちらも軽症の場合は、腸内環境を整えるために発酵食品を多くとるなどの食生活を心がけて徐々に解消しましょう。症状が重い時も便秘薬や下痢止めの頻繁な使用は産後の身体へ負担になるため、自己判断ではなく医師の処方に従うようにします。

産後1~2年はプチ不調があたりまえ?

産院で1か月後の母子健診を行い、赤ちゃんと自分の健康状態をチェックしてすべて合格なら一安心です。妊娠前の生活に無理せず復帰していきましょう。

しかし、ここからしばらくは心身のトラブルが出やすい期間です。産後ゆっくり身体を休めることができたにしても、妊娠前の生活とは180度違う育児中心の生活で身体と心が少しずつシグナルを出し始めます。

わかりやすい身体の不調は、腰痛や肩こり、目の疲れ、頭痛、腱鞘炎などの育児生活での身体的な疲労が局所にたまる症状と、尿モレ、性器の痛み、痔、体重の増減などの出産に伴う身体の変化による症状です。

出産で体力を消耗し、産後の睡眠不足や育児による疲労が重なり産後の女性の身体はボロボロといってもおかしくありません。

身体のどの部分に不調が現れるかはそのかたの生活習慣や体質にもよりますが、日々どこかに不調を感じてもおかしくないのが産後の女性の身体なのです。

そして忘れてはならないのがホルモンの変化による不調です。妊娠期間10か月間、胎児を育てるモードに体内で調整してきたホルモンが胎盤の排出と同時に劇的に変化をとげることになります。このホルモンバランスの変化は女性の心身へさまざまな影響を及ぼします。

ホルモンが影響する産後の不調やトラブルとしては以下のようなものが見られます。

  • 抜け毛
  • 吹き出物、シミ、肌荒れなど肌のトラブル
  • 貧血、めまい、倦怠感
  • 歯のトラブル
  • 気分の落ち込み、憂うつ、不安感

その他にも心身の諸症状が現れることがあります。

産後の身体のトラブルは受診するほどでもないいわゆる「プチ不調」の場合も多く、ホルモンバランスが良くなれば回復する症状が多くあります。

症状が軽い場合やすぐ治まっている場合はセルフケアやマッサージ・整体・鍼灸の施術などの力を借りたりして様子を見ながら改善を図るのが良いでしょう。

最近の産後の女性には気をつけていただきたいのが、携帯電話とパソコンの過剰な使用です。産後は目が疲れやすい上に、ブルーライトを浴びることや小さな文字を読むことは産後の身体には想像以上のダメージとなります。

まして日夜スマホやパソコンでずっとネットやメールを追い続けていては身体も神経も休まることがありませんのでデジタルライフはしばらく息抜き程度にとどめてください。

上手に家事の手を抜いたり周囲の助けを借りながら、ゆっくり休む時間を作りましょう。夜中の授乳による睡眠不足を補うために赤ちゃんと一緒に昼寝をする、急がない家事はやらずに横になって休息することなどの工夫をしてみませんか。

まずは産後の身体を休めることを第一にして生活しましょう。身体が免疫力を回復すると症状が治まることも多いようです。

しかし日常生活に支障をきたす場合や、長引く症状および自覚症状が重いものであればすぐに受診することをおすすめします。自分自身が不快で不安であることは受診の目安となります。

子育て中に体調の不快症状や不安を抱えているのは母子ともに負担になりがちなので迷わず受診してください。

受診の際は産後どれくらいであるかを医師に伝えてください。受診する科に迷うような症状は産院や婦人科、女性外来をまず受診してみると良いでしょう。

不調は数日で治まるもの、改善に月単位、年単位を要する症状もありますが個人差があることをよく念頭に置いて焦らずに回復を待ちましょう。

気分がふさぎこむ「マタニティーブルー」

心身の不調が現れやすい産後ですが、まったく原因が思い当たらずなかなか誰にも相談ができないのが「心の不調」です。

なんの理由もなくただイライラしたり、気分が落ち込んで泣き出したくなる、または涙が出るほどの憂うつを感じるなどの状態になる女性がいます。

産後にこの気分が不安定で塞ぎ込んだ憂うつな状態のことを「マタニティーブルー」と呼びます。

これもホルモンバランスの崩れから一時的になることが多く、身体の回復とホルモンバランスが整うことにより元気を回復していきます。個人差がありますがたいてい数週間から数か月くらいで治まります。

マタニティーブルーの状態が非常に長く続く場合は違う原因が考えられます。甲状腺の病気や産後うつという状態です。甲状腺は身体の健康を司るホルモンを分泌する器官ですが、妊娠と出産により一時的に甲状腺の働きに乱れが起こることがあります。

甲状腺の働きが乱れることにより身体はもちろん、精神的な症状が現れる場合が多くみられます。不安感、無気力、気分の落ち込みなどを引き起こします。考えられる病名は「橋本病」という甲状腺の病気です。甲状腺専門医の検査で簡単に発見できます。

気分が落ち込み心が元気になれない時は

最近よく知られるようになったけれども「産後うつ」という状態は非常に相談や受診までにハードルが高い症状ではないでしょうか?

育児ノイローゼや更年期障害などとも見分けがつきにくく出口のない気分の閉塞感に絶え間なく悩まされている女性は産後10人の女性のうち1人以上はいると言われています。

妊娠から出産という身体への大きなストレスと同時に、今まで長年続いたライフスタイルを出産により育児中心の生活に全く変えざるを得ないことなどの精神的ストレスがかかります。

特にまじめで几帳面な性格の人、核家族で周囲に相談できる肉親がいない人、弱音を容易にはけないタイプの人などは精神的なストレスはさらに大きく感じるでしょう。

まずは、夫(パートナー)や自分の肉親へ精神的なつらさを打ち明けて理解と協力を得ること、そして可能であれば同じ境遇に悩んでいた人から助言をもらうことができると大きな助けになります。

心療内科にはちょっと抵抗があるけどきちんと心の症状で病院を受診したい、と考えるなら女性専門外来が良いでしょう。この女性外来には生理痛などの症状からから不定愁訴やメンタルの問題までさまざまな症状を訴える女性患者が多く訪れます。

女性外来は女性の身体と心を全体的に診て治療にあたってくれ、投薬治療には漢方を処方してくれる病院もたくさんありますので受診を考えたらチェックしてみてください。

もし受診もできず、頼る人が誰も思い当たらない場合でも、地域の自治体サービス、保健所、NPO法人の女性カウンセリングなどを利用して悩みを話してみましょう。人に悩みを話すということは心のつかえや重さが想像以上にとれる作業です。

焦らず毎日を快適に過ごすアイデア

日常の生活では赤ちゃんを連れて1日1回は必ず日光を浴びに外出する、育児や家事に神経質にならないようにする、趣味の自分だけの時間も作ってのんびり過ごすなどの工夫で上手に気分転換をして自律神経を整えましょう。

特に朝の日光を浴びることはホルモンバランスの調整にとても役立ちます。無理のない程度に軽い運動ができるようなら、朝のラジオ体操などから始めてはいかがでしょうか?

ラジオ体操なんて小学生でもあるまいし・・・と侮ってはいけません。ラジオ体操には身体をまんべんなく動かすすべての動きが組み込まれていて、人間が本来もつ力を引き出す効果があるのです。

産後の女性でも負荷がかかりにくい動きのラジオ体操を3分間することは血流の改善や免疫力アップ、心身のリフレッシュにつながるとされ、症状をとり身体や心の健康を取り戻すには手軽でとても良い体操です。

運動は無理だけど赤ちゃんを連れて散歩くらいなら、というかたは散歩から始めましょう。身体を動かすのもおっくうだというかたは、ぜひ「腹式呼吸」だけでもおこなってください。

腹式呼吸には身体機能や内臓機能を高め、血流の改善や免疫力をアップさせ、自律神経を整える効果があります。心の不調で悩むかたにも、脳へのリラックス効果のある腹式呼吸はとても良いでしょう。寝る前でも良いので空いた時間に心がけておこなってみてください。

たくさんの産後の不調を例にあげましたが、これほど産後の女性は多岐にわたる症状がでてもおかしくないとても変化の激しい状態にあるということです。必要以上に気にやまず、自分に合った方法を探しながらどんどん元気を取り戻してください。

焦らずじっくりと自分の身体をいつくしみながら育児を楽しんでください。きっと赤ちゃんも応援していますよ。

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